医師や看護師は、病気をしたほうがいい治療者になれます

患者さんのつらさが実感としてわかる

健康や病気についてあまり知識がない素人でも、あなたがやめたいと思っている悪い習慣を改めるのに成功した人や、同じ病気を経験し、しかもそれを乗り越えた人というのは、ひじょうに心強い、よき友となります。何より、実際に苦しみや痛みを知っていますから、同じ土台に立って話すことができます。

それは、ひじょうにリアルで具体的な話になりますし、親身に相談に乗ってくれるでしょう。しかも、その人はすでに成功をおさめたわけですから、その人のとった方法は効果があるはずです。それをそっくりまねすることはできなくても、自分の場合はどうしたらうまく悪い習慣をやめられるかということを考えるうえで、たいへん参考になります。

私は内科医で心臓病を専門としていますが、私自身は心筋梗塞にも狭心症にもなったことかありません。患者さんに、いまのままの生活をつづけていると、心筋梗塞や狭心症で苦しむことになりますよ、という場合でも、これまで私か診てきた患者さんの苦しみ方や、本を読んで得た知識を伝えることになります。

心臓の専門家といっても、ほんとうの意味では心筋梗塞の苦しさがわからず、患者さんの立場で考えようとしても、その立場になりきれないことが多いのです。そんな私でも、患者さんのつらさが実感としてわかることがあります。京大医学部の学生だったとき、私は結核にかかり、八ヵ月間自宅のベッドで寝たまま過ごしたことがあります。当時は効果のある治療法がなく、栄養を十分にとって、ただただ安静にしていることぐらいしか、対策はなかったのです。

私も絶対安静で、八ヶ月間、ひたすらベッドの上で過ごしたのです。横になって寝ているだけというのは、一見ラクなようでいて、けっしてラクなことではありません。じっとして動かずに寝ていると、ものすごく腰が痛くなってくるのです。

腰痛を訴える入院患者さんがいると、そのつらさが、医師である私にもよくわかります。私はさっと患者さんの腰の下に手を入れ、すこし腰を浮かせるようにしてあげます。そうすると、腰の痛みがやわらぐことを、私自身が身をもって体験してわかっているからです。

患者さんも、「先生、たいへんラクになりました。でも、先生にずっと手を入れてもらうのはお気の毒です。どうぞ抜いてください」と言ってくれます。
患者さんとの心の交流を感じるのは、こんなときです。

よき先輩”を探す

このように、経験というのはたいせつなものです。「自分自身が入院してはじめて、入院患者の痛みやつらさがわかった」という医師も少なくありません。私など、医師や看護師は、死なない程度の重い病気をしたほうが、いい治療者になれるのではないかと思ったりすることもあります。

まさに。経験者は語る”というのがいちばん強いのです。タバコをもともと吸わない私か「タバコはやめましょう」と言うよりも、長年ヘビースモーカー
だったのに、肺ガンや心臓病になるのがいやで、がんばって禁煙に成功した人の話のほうがずっと説得力があるはずです。

健康を維持している人の話も有益です。聖跡加国際病院の人間ドックでは、毎年”同窓会”を開いています。人間ドックにはいった体験者の集まりですが、なかには九十何歳でもかくしゃくとしている人が出席されます。

そういう人を見ると、七〇代、八〇代の人でも、「九〇歳を過ぎてもこんなに元気なのは、どういうわけだろうか。もしかしたら、自分もあの人のように健康に長生きできるのではないだろうか」と思うのでしょう。九〇歳の人のまわりに多くの人が集まって、何を食べているか、どんな生活をしているか、どんな運動をしているかなどと、熱心に質問するのです。

そうした”理想のモデル”として、いままででいちばん印象深かった方は、もう亡くなられましたが、禅の大家の鈴木大拙師です。九五歳九ヶ月で亡くなるまで現役として活躍していらっしやったのですが、聖路加国際病院の「人間ドック同窓会」にときどき来て話をしてくださいました。そんなときは出席者から質問攻めにあい、たいへんだったことを思い出します。

もし、どうしても生活習慣を変えようという決心ができなかった人は、こうした。よき先輩”を探してみてください。  

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