医師に頼っても、よい習慣は身につかない|一般の医師の関心は病気予防には向いていません

医師は習慣の情報を持つていない

「このまえ人間ドックにはいったとき、お医者さんから、あなたは太りすぎだし、糖尿の気もあるから、体重を減らしなさいと言われてしまったよ」「そうか、おれもアルコールを飲みすぎないようにと言われているんだが、仕事をしていると、なかなかそうはいかないんだよなあ」

レストランなどで、こんな会話をかわしながら食事をしている人たちを見かけることがあります。テーブルの上には、いかにもカロリーが高そうな脂っこい肉の皿が並び、ビールやお酒などのびんもちゃんと鎮座している。

そんな人たらを地かけると、「そんなことをしていると、あのときあんなに食べなければよかった、飲まなければよかったと後悔する日が、遠からずやってきますよ」と言いたくなりますが、それと同時に私か感じるのは、悪い習慣を直してよい習慣を身につけるには、やはり医師はあまり役に立たないなということです。

日本の健康保険では、医師が三〇分間診察しても、三分で診察を打ちきっても診察料は同額です。そのうえ日本の病院は外来患者が多すぎるため、医師の診療時間はつい短かくなります。

よく、「三分間診療」「五分間診療」といわれているように、医師たちはつぎつぎに患者さんをこなすのに忙しく、患者さん一人ひとりの話をじっくり聞いたり、生活習慣についてていねいにアドバイスをする時間の余裕がありません。「もっと体重を落としてください」「脂肪の多いものはなるべくひかえてください。和食がいいですよ」などと言うのがせいぜいでしょう。

「悪い習慣をやめ、よい習慣を身につける。それが最高の病気の予防法になる」と口で言うのは簡単ですが、実際に実行するとなるとなかなかたいへんです。強い意志力の持ち主ならいざ知らず、一人でがんばっているだけでは、ほとんどの人が途中でくじけてしまいます。よい習慣を身につけるには、”味方”になってくれる援軍が必要です。周囲に力を貸してくれる人がいるでしょうか。

医師が頼りになりそうな感じがしますが、じつはこの場合、医師はあまり役に立ちません。忙しいということもありますが、日本の医師が関心を抱いているのは、あくまでも病気を見つけたり、どう治療するかということだからです。医学校での学生の教育も、診断や治療にばかり重点がおかれてきたのです。

一方、医師が検査をしないで指導だけするというのでは、出来高払いの健保報酬では収入が少ないということもあります。最近の診療報酬の項目をみると、生活指導を行なった時の報酬の点数が少し増えましたが、これは医師が良心的に行なうことが条件になっています。

ですから、「病気にならないように、悪い習慣を改めるにはどうしたらいいでしょう」と医師に聞いても、あまりはかばかしい答えは返ってこないでしょう。そうした情報を患者に分かりやすく伝え、患者に動機づけを与えて実行にふみこませるという、行動科学的技術を習得するように医師は訓練されてこなかったのです。

病気があるように願っている?

一般的にいって、日本の医師と患者さんの関係は、あまり望ましいものとはいえません。長いあいだ、医師は一方的に治療を行ない、患者さんはだまってそれに従うという関係でした。医師と患者さんが対等ではありません。

日本の医師は肘つきの椅子に座っているのに、患者さんの方は支えのない回転椅子に座っている風景は、欧米の医師には逆の形にみえるということを、私はアメリカの友人の医師から聞かされました。これも医師と患者さんとが対等でない表れです。

あくまでも医師が上であって、患者さんは受け身の姿勢になり、質問をするのさえ遠慮する。ですから、日本ではインフォームドーコンセントは定着しないだろうという人もいます。

たとえば、日本の医師だと「あなたは病気だから、この薬を飲みなさい」というところを、アメリカの医師だとこう説明するでしょう。

「この薬は、動物実験ではいい結果が出ているけれども、あなたのガンに効くかどうかはわからない。これで治る可能性もあるが、治るとは思わないでください。がっかりすることが多いから。もしあなたがよければ、この薬を使いますが、どうしますか。また、いったん使いはじめても、もしつらい副作用が起これば、あなたの意思で、いつでも中断してもいいのです」

この例はアメリカのテキサス州ヒューストン市のガン専門病院M・D・アンダーソン病院での実例です。ある意味で、患者まかせの突き放したような言い方に感じるかもしれませんが、あくまでも患者さんの意思を尊重しようとしています。

日本の場合、治療のために薬を出しても、患者さんがきちんと指示を守って飲む確率は五割程度といわれています。半分近くの人が飲み忘れたり、飲む時間を守らなかったりというように、医師の指示に従わないのです。これも、医師と患者さんとのあいだの信頼関係が薄く、服薬についてのていねいな説明がないことに問題があるからではないでしょうか。

しかし最近は、薬剤師が医師により処方された薬の名前と量、飲み方や副作用を説明した紙片を患者に渡したり、看護師が服用についての心得をやさしく説明したりするので患者さんも正しく服用するようになりました。

ただ問題は、老人の場合、内科で高血圧治療薬を、整形外科で関節炎の薬を、皮膚科で皮膚災の薬を処方され、それらの薬を指示どおりにとると、薬どうしの作用で副作用が現れることです。これは薬剤の害です。

医師が患者さんを診察する態度には奇妙なものがあります。自分の子どもを診察するときには、何も異常がないように願っているはずですが、患者さんに対しては、自分が興味を持っている病気を一生懸命に探してしまうのです。

これは言いすぎかもしれませんが、学会の宿題報告を頼まれて研究している医師は、心の深層で「病気があるように願っている」といえるかもしれません。また、学会で珍しい病気の症例を報告したいと願うときには、目的の病気をもつ患者さんを大歓迎するでしょう。

不謹慎な話ですが、すぐ治るような軽い病気の患者さんしか来なかったときに、「今日は”獲物”がなかったよ」などと冗談を言う風景を描く漫画家もいます。

じつは、私も若いときはそんな心境になったこともありました。学会発表が近づくと、「研究の題材になるような患者さんが、今日は来ないかな」と探しはじめるのが常でした。ところが、自分の親戚や知人には「どうか病気がありませんように」と願いながら診察します。

このように天使と悪魔の両方の心を持っているのが研究熱心な医師かもしれません。

もちろん、医師の誰もがこんなふうに。獲物”や。題材”として患者さんを診ているわけではありませんし、医師を疑えと言っているわけでもありません。

しかしこのように、医師の関心はつねに、病気にかかる人間よりも、疾病そのものや、ガン組織、動脈硬化といった病的所見に向けられていて、病気予防にはなかなか関心が向かないということを知っておいていただきたいのです。

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