私のところにときどきお手紙をくださる八〇代の女性がいます。この人には心臓病があるのですが、「習慣が人をつくる、心もからだも」という判こをつくり、知り合いの方に手紙を出すときは、封筒にかならずこの判こを押してくれているのです。私か誤った習慣を改めようという運動をしているのを知り、こういう形で、私のやっている健康運動を助けてくださっているのです。
この女性から聞いた話ですが、その人が心のよりどころにしているのが、一人の友人だというのです。もう六〇年もまえに病院で知り合いになった女性ですが、お互いに病気を持っているということもあって、その後はただの一度も会わずに文通だけしているというのです。「長い年月、姉妹のように、慰め、励まし合って生きてきました」と、その女性は語っていましたが、こうした心の友がいると、それだけでも元気づけられるものです。
実際に病気と闘っていたり、習慣を変えようとしているときには、かなりストレスもたまってきます。こうしたストレスを上手に解消するのも、よい習慣づくりにはだいじなことです。もちろん、ストレス解消の方法は人さまざまでしょうが、たいへん効果があるのが、人としゃべって話を聞いてもらうことです。
とくに、いままで酒やタバコ、あるいは食べることなどでストレスを解消してきた人がその生活習慣を改めるには、ストレス解消の新しい方法を見つけることが大きな課題になってきます。
いままでストレスをタバコでまぎらせてきた人などは、タバコをやめることでストレスが爆発し、またタバコに手を出してしまうかもしれません。こんなときこそ、「人と話をする」というのが効果的でしょう。
といっても、これは「人と話す」というよりも、「人に話を聞いてもらう」といったほうがより正確かもしれません。聞き上手な人に自分の悩みを聞いて
もらうだけで、気分がすっきりすることもいものです。話しているうに、悩みが解決してしまう人もいるくらいです。
私か理事長をしている財団法人ライフプランニングセンターは一般の人への健康普及活動をしているほか、わが国最初の独立型ホスピス(ピースハウス病院)を10年近く前の一九九三年に神奈川県中井町にある平塚富士見カントリークラブというゴルフ場の中に開設しました。この末期ガン患者さんを収容する施設は、多くのボランティアの方々に協力してもらっています。このボランティアのだいじな仕事の一つが、入院している患者さんの話し相手になってもらうことです。
家庭から離れて、ホスピスで療養している患者さんたちは、死が近いことを身に感じてみな大きな不安と孤独感をもっています。話し相手になってくれるボランティアの方たちは、医師や看護師たちの医療スタッフにはできない心のケアをしてくれているのです。
この患者さんの話し相手になるには、人によって向き不向きがあります。おしゃべりな人や、話し好きで、人を笑わせるのが上手な人は、じつはこの活動には不向きです。向いているのは、むしろ言葉数の少ない人です。というか、患者さんの話を、ときどきあいづちをうちながら、じっくり聞いてあげられる人です。
ガンの末期になり、余命がいくらもないという人は、「大丈夫よ」「がんばって」などと下手に励まされたりすることをけっして望んではいません。それよりも、自分の人生を振り返り、自分が生きてきたことの意味を見いだそうとしているのです。よき話し相手を得ると、患者さんは自分の人生を語り始めます。
「あのときは苦労したのよ。それで、娘はいまは遠く離れて暮らしているんだけど……」「そう、たいへんだったのね」 話しているうちに患者さんの心も安らいでくるのです。
もし、あなたに聞き上手な友だちがいて、ほかの人には言えないようなグチもその人にだけは心をゆるして話せるとしたら、このストレス時代に、あなたはたいへん恵まれているといえましょう。よき友と話すというのは、悪い習慣を改めるときだけでなく、心おきなく人に心境を語るというよい習慣が、あなたに大きなプラスをもたらしてくれます。